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「人生は心一つの置き所」、これほど真理を言い表した言葉はないと思います。不運は誰にでもしかも突然にやってきます。例外はありません。
しかし、その状況をどのように捉えるか、「もうだめだ・・・」と思うのか、「よし!今が踏ん張りどころだ!」と思うのかで人生は変わってきます。スポーツ選手が試合に負けた時に「失敗をきちんと分析し、気持ちを切り替えて、次に備えます」という発言をよく耳にします。これこそまさしく「心一つの置き所」です。そのための実践的方法をお伝えするのが天風哲学です。

司法試験受験

私は現在、弁護士をしています。弁護士になるには司法試験に合格しなければなりません。しかし、私はなかなか合格できずに苦戦しました。高校受験や大学受験で特段苦労らしい苦労はしなかったので、司法試験の失敗が初めての挫折といっても良いでしょう。
日々勉強をしていると「今年も無理か・・・」「落ちたらどうしよう・・・」といった精神的プレッシャーがあります。そのような精神的プレッシャーの中で試験本番を迎えます。すると問題文を読み間違え、普段では考えられないケアレスミスをします。「いかにしたら、落ち着いて、普段と同じように力を出せるか」、日々の勉強も大事ですが、これは「心の問題」ではないか、ということに次第に気づいてきました。
そこで参考にしたのがスポーツ選手です。スポーツ選手が試合前にイメージトレーニングを行い、「絶対に勝つ」といった自己暗示をする方法でした。これらを参考に合格発表の掲示板には自分の名前がある場面をイメージし、試験本番で分からない問題に直面した時に、試験中で口には出せずとも、「大丈夫、焦るな、落ち着け、必ず解けるはずだ」と心の中でつぶやいていました。このような方法が功を奏し、司法試験に7回目の受験で合格することができました。

天風哲学との出会い

たまたま手に取った『「清富」の思想―この「徳」を磨け、人生に必ず勝利あり』(船井幸雄著)という本で天風先生のことが紹介されており、それをきっかけに他の本で天風哲学を学ぶようになりました。イメージトレーニングは天風哲学の『理想の摩訶力』に近く、言葉による自己暗示は『観念要素の更改』に近いです。司法試験時のイメージトレーニングや自己暗示の経験があったので、天風哲学はすんなりと自分の中に入っていきました。
「心の問題」というと精神論であり、単なる根性論ではないかと思う人もいるかもしれませんが、天風哲学は極めて実践的な合理的方法です。最近になってさらに科学的裏付けがなされているものもあります。

弁護士として天風哲学の実践

天風先生は大正から昭和にかけてご自身の経験や直観に基づき体系的・科学的に自らの哲学を解説されました。当時、関連する研究はほとんどなかったはずで、あの時代に天風先生がこれだけの研究をなされたことに大変感銘を受け、更に詳しく学びたいと思いました。
How to do(方法論)はもちろん大切ですが、天風哲学は単なる方法論だけではありません。「人間は何をしにこの世に生まれてきたのか」といった哲学的意義についても考える機会を頂き、弁護士として仕事をする上で「これだ!」と直感しました。
さて、弁護士の仕事は人の法律トラブルを解決する仕事です。ご相談に来るほとんどの方がマイナス感情を持って来られます。相談者の気持ちに共感することは大事ですが、過度に共感しすぎて私もマイナス感情を持ち、適格なアドバイスができなければ弁護士失格です。そして、法律的解決の提案以外にも、相談者をどうやって元気づけるか、どうしたら少しでも前向きになってもらえるか、ということを考えます。過去や今の辛い状況は変わりませんが、それでもその受け取り方を何とかプラスに変えてもらいたいのです。天風先生の言う「人生は心一つの置き所」です。一例として、相談の最後の締め括りに笑顔で「それでは一緒に頑張ってやっていきましょう」と一声かけると、一瞬でも表情が明るくなります。これは天風教義の「対人精神態度」の実践です。
また法律論を厳密に貫くと、どう考えても現実的にはおかしな結論が導かれることがあります。所詮、法律は人が作った相対的なルールであり、絶対的真理ではありません。法律から少し離れて考えてみようと思った場合、その指針となるのが誠と愛と調和です。特に重要なのが調和です。利害関係人のすべてが納得できるか、ということです。とは言え「あちらを立てればこちらが立たず」といったように、調和を保った解決は非常に難しいです。何時もうまくいっているとはいえません。ただ、少なくともそのような心構えだけは忘れずに心にとどめています。

天風哲学の伝道者として

天風哲学は実践哲学であり、単に学ぶのではなく、生活や仕事に活かすものです。天風哲学を学んだものとして恥ずかしくない人生を送り、少しでも自分の経験をお伝えし、できるだけ多くの人に天風哲学に触れて欲しいと思っています。

佐藤 高宏 | 弁護士

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