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明るい反面、気性が激しく、怒りやすい性格だった私。仕事での挫折から、これからどうやって生きていけばよいか深く人生を考えるようになった時、中村天風の本に出合う。天風哲学を日々実践し、自分が使う言葉を積極的にして勇気を出すことで、不眠・パニック症状を克服。人間の本質の的を射ている天風哲学と共に、今は「あらゆる境遇は自分を成長させる」と確信している。

明るい反面、気性が激しく、怒りやすい性格

天風哲学を学ぶ前の私は、周りからは、明るいねとか、面白いねと言われる一方で、気性が激しく、怒りやすい性格でした。会社では気に入らないことがあると先輩だろうとすぐに人に突っかかり、その時、会社でついたあだ名は「狂犬」でした。

普段の生活でも本当は恵まれているはずなのに、他人と自分をいつも比べて不満を多く感じ、当然のように愚痴をこぼし、過去のミスをいつまでも引きずっていました。あらかじめ悪いことを予測していれば実際に苦労が起きても気落ちが少ないだろうと思い、取り越し苦労をしていました。

困難なことや嫌なことが起こるといつまでも気にして他のことが手につかず、悩みを寝床まで持ち込んで考えている時もあり、その時はそれを悪いことだとも知りませんでした。体の方も下痢が続き、二か月に一回は腰痛や背中の痛みで病院に行き、時には痔にもなりました。周りの人や親にも「体が弱いよね」などと度々言われ、自分の体は生まれつき弱い体質だと思い込んでいました。

職場の人から悪く言われる時もありましたが、仕事は自分なりに精一杯やっていて、上司からも評価をもらっていたので、自分に間違いはない、人生というものは苦労がつきもので消極的な部分があっても何時かは認められると思い、自分なりに一生懸命働きました。そして入社して何年か経ち職場のリーダーを任されることになりました。

仕事での挫折が深く人生を考える契機に

これから経験を積んで頑張って行こうと思っていた矢先、2008年に起きたリーマンショックで工場が縮小され、職場に経験の高い実力がある人たちが異動してきました。このため、私は数ヶ月でリーダーというポジションを外されてしまいました。その時の気持ちは自分が簡単に弾き飛ばされたコマのような感じがしました。初めての挫折でした。今まで何の為に自分は頑張ってきたのか、何で周りの人は自分を認めてくれないのか、一度落とされたら二度と上がれないじゃないかと思い、その時はとても落ち込みました。

友人にも愚痴をこぼし、あんな会社辞めるとまでも言っていました。毎日仕事をしていても他に自分に向いている仕事があるのではないかと思いながら働き、ほとんど集中力を無くしていました。その時から自分は何の為に働いているのか、何のために生まれてきたのか、これからどうして生きて行けばよいのかと深く人生を考えるようになりました。そして偉人、歴史に名を残す人たちの言葉を参考にしようと思い、名言などを読み漁るようになりました。

その言葉の一つに「考えてどうしようもないことは、考えなければ得である」と書いてありました。自分だってそうしたい。そうするにはどうすればいいのか、その方法を教えてほしい。そして気がつけば悩みに囚われてしまっている。余計に自信を無くし、ますます人生が分からなくなりました。

そんな中で友人が「松下幸之助と山本五十六が良い」と薦めてくれたのを思い出し、松下幸之助の言葉を調べると「健康であるために必要なことは何かというと、栄養であるとか休養とかいろいろあるが、特に大切なのは心の持ち方です」と書いてありました。

健康のためには食事の栄養が一番大事ではないか、何を言っているのだと疑問に思いながら、松下幸之助に興味を持つようになりました。そして調べてみると、この二人が師事した人が中村天風だとその時初めて知りました。この中村天風は本を出してないのかな、もし本があればどんなことが書いてあるのだろうと中村天風の本をすぐ探しに行きました。

中村天風の本との出合い

最初に買った本は『幸福なる人生』です。読んでみてもあまり理解出来ず、ただ昔の人の話が載っているのだなと思い真剣に読みませんでした。そして、また今度暇な時にでも読もうと思い、本棚に置きっぱなしにしてしまいました。

本を買って天風哲学を目の前にしても、普段の生活は相変わらず不平不満や将来への不安、神経過敏の生活でした。そのため、心が弱くなっていき、そして神経衰弱になってしまいました。

そんなある日、急に全く眠れなくなり不眠症になってしまいました。食事も美味しく感じられず、でも食べなくてはと思い無理やり飲み込む日々が続きました。お酒を飲んで気をまぎらわそうとしても酔うことさえもできず息苦しくて、自分は心の病とは無縁だと思っていたのに、まさか、こんなことになるなんてと、不安と絶望感が襲ってきました。

そんな日が続いて、このまま自分は死んでしまうのではないかと思いパニック状態にもなりました。その時は、神様が私を散々苦しめて最後に消し去るつもりじゃないのかと本気で思いました。でも自分は生きたい、お金も地位もどうだっていい、ただ普通に生活がしたいと心の底から思いました。眠れない日々、何とか気をまぎらわそうとフラフラになりながらも以前に買った中村天風の本を思い出し、もしかしたら何か書いてあるのではないかと読み進めていきました。

本の中の「名文句、名言に酔う人間は絵に描いた食べ物を見て腹いっぱいになったと思っている慌て者だぞ、そして方法なき教えに救いはない」という言葉が、その時の自分の気持ちにとても突き刺さりました。そして実践哲学である天風哲学を詳しく学びたいと思い、天風会を通じて「静岡の集い(現:静岡の会)」に参加することにしました。

パニック状態の克服

最初は天風哲学をすぐに理解することができませんでした。でも、集いのみなさんが優しくて、不安な気持ちを抱えながらも少しだけ安心した気持ちも感じました。その後、1~2度通っても効果は出ず、本当にこのまま参加しているだけで自分は大丈夫なのか、こんな辛い思いが続くのだったら早く病院に行って、医師などの専門家に診てもらった方がいいのではないかと思う気持ちも正直抱えていました。

そして、ある日の静岡の集いで村里講師と出会いました。

その時の講演では、村里講師ご自身の昔の苦難の経験を話してくれました。その苦難の経験が今の自分の状態に似ていると思い、講演会が終わった後に思い切って「私は今パニック症候群のような状態ですが、病院に行かず大丈夫でしょうか」と自分の思いを話しました。すると村里講師が「パニック症候群になるということは真面目な性格で良いということだよ。天風哲学、心身統一法をしっかりやり続けてごらん。僕も治るまで三年ぐらい掛かったかな。きみもすぐに治そうすんじゃなくて三年ぐらい掛かると思い長い気持ちで、天風哲学によって成長できるのだと思うことが大切だよ」とハッキリと話してくれました。そのハッキリとした言葉に自分の決意が芽生えました。

それから毎月、静岡の集いに参加し、普段の生活でも天風哲学を実践しました。

その中で心掛けたことの一つが、自分が使う言葉です。人間には言葉の暗示を受ける習性があります。自分が使う言葉を一番聞いているのは自分自身です。消極的な言葉を使えば、そのまま復唱し自分の中に暗示として入ってきます。中村天風は「言葉には人生を左右する力があり、さらに言葉は人生を勝利に導く最良の武器である」と言っています。ですから、消極的な言葉を嘘でも冗談でも言わず、積極的な言葉を進んで使うようにしました。

もう一つは勇気を出すことです。心が弱くなった時は、新しい仕事、人ごみさえも恐ろしくなりました。しかし「勇気は常に勝利をもたらし、恐怖は常に敗北を招く、終始一貫勇気勇気で押し切るのだ」と、この言葉を胸に、怖いと思った所へも自ら飛び込んで行きました。すると、心配していたような怖いことは何も起こらず、単に自分の取り越し苦労だったことに気が付き始めました。

そうして、しばらくすると少しずつ以前のような生活ができ、段々と元気が湧き出てくる感じがしました。

元気になって趣味の釣りを楽しむ

あらゆる境遇で成長できる自分へ

天風哲学を学んで三年以上になりますが、今でも体調を崩すことや困難なことも起きます。怒ること、悲しいこともあります。それでも、またこの境遇で成長できると素直に思えます。「本当に強い心をつくる」とは、自分の意志で心の置き所を良い所へと置けることだと思います。

職場地位が上がった訳でもありません。しかし、以前のような愚痴や不満が無くなり、周りの人に突っかかるようなことが本当に少なくなりました。自分で自分をコントロールできるようになった感覚です。

出世したいと思う気持ちは全く無くなったわけではありませんが、あまり欲望に囚われず、今、現在、目の前の仕事に打ち込めるようになりました。そして、こうして元気に仕事ができることに感謝する気持ちが強くなりました。以前は、仕事でうまくいかないのは周りが認めてくれない、時代が悪いのだと思っていました。しかし、報償の法則、原因と結果の法則があり、自分の考え方や行動で知らず知らずのうちに原因を作っていたのだと分かり反省し、もう一度ゼロからスタートしようと決意しました。

中村天風は「人間には自分で自分の命を守る偉大な力をみんなが生まれながらに与えられている。そして自分に安っぽい見切りはつけないで、自分の身は自分で守れ」と言っています。私も自分の命は自分で守り、これからも成長し自分を高めていきたいと思います。

天風哲学は実践哲学です。しっかりと組立てられた方法があり、しかも、その方法は小学生でも理解でき日常生活の中で実践が出来て、お金も掛かりません。

松下幸之助は「いくら時代が進んでも人間の本質は変わらない」と言っていますが、複雑になっている社会の中で人間の生き方に本当に大切なことを教えているのが天風哲学だと思います。

今の時代であろうとなかろうと人間の本質の的を射ている天風哲学はとても大切です。

ぜひ皆様に、天風哲学に触れることを強くお薦めします。

名倉伸也|製造業勤務