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自信満々。人生で最も充実した毎日を過ごしていた最中、一転、絶望の真っただ中に放り出される。ひたすら『運命を拓く』をマインド・マップに書き起こしている内に、小さな奇跡が起きていることに気づく。興味の有る・無し、好き・嫌いから離れて、全意識を自然の流れに預けることで、弱々しい自分が、瞬時に、頼もしい自分になることを知る。

外資企業の日本法人社長として10年続けてきて思うこと

私が現在の会社の社長職を引き継いで、今年でちょうど10年が経ちます。今の会社とはスイスの生地メーカーの日本法人です。皆様のお蔭で、この10年間、黒字計上を続ける事ができており、昨年、東京本社を五反田から南青山に移転させることもできました。
12年前、前職でのこと。私が担当していた海外ブラントの総輸入・販売権を競合他社に奪われ、全社の収益の20%を上回る損失を生んでしまうという事件が起きました。
その事件まで、私は、何をするにも自信満々。人生で最も充実した毎日を過ごしていました。

しかし、まさかの転落事故。一転、身にまとっていた剣と盾を奪われ、鎧を剥がされ、素っ裸にされ、絶望の真っただ中に放り出されたような毎日が始まりました。
私は、当たり前のようにメンタルもフィジカルも不調をきたし、なんとかしようと、もがき苦しんでいました。見かねた友人が、中村天風という人について書かれた『宇宙の響き』という本を送ってくれました。そこで中村天風を知り、『運命を拓く』という本を見つけ、まるで当時の自分に直接、語りかけて来るような口調に魅せられ、この本を生活の軸と考えるようになりました。繰り返し読み、押し潰されてしまいそうになる、ぎりぎりのところで踏みとどまることを繰り返していました。

理論から心の使い方へ

その頃の私は理論や知識を突き詰めることが、力の源だと信じ切っていました。しかし、「それでは、今の境遇をどうにもすることができない。まったく歯が立たない。」どうしたら良いのか分からず、唯一閃いたのが、『運命を拓く』をマインド・マップに書き起こし、ひたすら加筆修正を加え続けることでした。そうしている内に、踏み潰されそうになるたびに、偶然、助けてくれる誰かに出会ったり、たまたま、どうしても知ることの出来なかった情報が飛び込んで来たり、突然、閃きをくれる場所に出くわしたりと、小さな、小さな奇跡が起きているように思えてきました。

年末、デスクを片付けていると、一通の真っ白な封筒が、DMの山の中からこぼれ出てきました。どこかの会社からのヘッドハントのお手紙でした。失礼なことながら、このご紹介者に対して何のリスペクトも持つことなく、ただただ興味だけで、電話してみたところ、「会ってからでないと、具体的なことは何も言えません。」と言われ、私は「それならば、仕方ないですね。そもそも、その業界ならばクリエーションバウマンというブランド以外に興味は無いですから」と伝えたところ、「とにかく、是非、一度。」としっかりとした口調で返され、どことなく背中を押してもらったように感じ、思い切ってお会いすることにしました。
お会いして、先方が開口一番、「これを見て下さい。」と、私に手渡した一通のレターには、私が名指ししたブランド、今の会社が私を指名してる旨が、書かれていました。
「これは、もう、偶然というレベルを超えている、何かに動かされているように感じる、この流れに身を任せるしかない、次の展開が自分を待っているような気がする。」 ご紹介者も同じように感じたご様子で、早速、オーナーとの面談のために1月の初めにスイス行きをアレンジして下さることとなり、10年を経た今もこうして現職を務めています。

今でも、逃げ出したくなる気分に襲われることは頻繁にあります。でも、その鬱蒼とした重苦しい気分を、休日に旅行に出かける朝のような、溌剌としたウキウキとした気分に、瞬時に切り換えることができることを、今は、知っています。そして、そのウキウキした気分は周りの人々に瞬時に伝わり、人同士が繋がった感じの明るく、朗らかな調和をもたらしてくれることを、日々、経験しています。自分の興味の有る無し、好き嫌いから離れて、意識を全て、自然の流れに預けると、弱々しい自分が、瞬時に、頼もしい自分になる。今では、仕事を通じて、この経験を積み重ねられることに、心から感謝しています。

柴田昌彦 | 外資企業 日本法人社長