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思い起こせば、三十数年前私は中間管理職の陥る、上下からの圧力の中で、心労の多い毎日を過ごしていました。ストレスはやがて心身症となって私の場合、心血管系の異常という形で発現してきました。当時は攣縮(れんしゅく)と言う痙攣性の冠動脈疾患の特効薬はまだなかったのです。何より原因のストレスを取り除くことが、喫緊の課題でした。今の働き方改革から見れば、真逆の毎日を送っていた私にとって、ただ「ストレスを減らしなさい」という医者のアドバイスは全くむなしい魂のこもっていない虚ろな言葉にすぎませんでした。

何とかして心に被さってくるストレスを抑え込もうと必死でもがいていたのです。そんな時上司から1冊の本を貸してもらったのです。太い本でした。そして重い本でした。
上司も心配してくれて貸してくれたので、読まないわけにはいきません。元来読書はあまり好きな方ではなかったものですから、こんな分厚い重い本を読むのかと、内心「しんどいな~」と思ったのです。仕事中は読めません。家で読もうとしても毎日深夜に帰り着いて夕食を食べると疲れてすぐ横になってしまいます。ですから帰りの地下鉄の中で読みました。往きはとても本を読める状態ではありませんでしたから、比較的空いてきた時間帯の帰りに読んだのです。それが『成功の実現』と言う本でした。丁度発売されてしばらくした時だったのです。しかし私はその本を読みだしてすぐに、夢中になりました。とてもすごい事が書かれていたのです。当時何も知らなかった私にとって、そこにかかれていた内容は、それこそ青天の霹靂と言っていいようなものでした。
病の時は医術と薬と考えていた私は、天風師の考え方が全く私と正反対であったのに驚きました。でも正直言ってこんなことが本当に起こるのだろうかと、まだ科学一辺倒(それが間違った科学観であることに気付いていなく、時代を先駆けていると自分勝手に考えていたのです)の考え方しか持たなかった私は、心を揺さぶられながらも一部に疑いの目を残していました。

然し当時の私はストレスに打ち克って自分を立て直したい一心でしたから、まだ疑いの気持ちを持っていたとはいえ、天風師からは決して離れませんでした。そして上司に返さねばならない本をいつまでも手元に置くことは出来ず、大枚1万円(当時)を払って『成功の実現』を本屋で買ったのです。1万円の本など恥ずかしながら普通の精神状態なら決して買う事などなかったと思います。それは感動と共に病に打ち克つ糸口を見つけられたという思いがあったからでした。すぐに護国寺に足を運びだしたのです。そこでは、男女とも裸足、男子は白の半パンツ、女子は白のワンピース、そしてハチマキを締めて1列になって走る姿を見て、「間違ったかも」と思ったものでした。でも私は自分でも思うのですが、一度心に決めると、それをものにするまでトコトンやる方なのです。いつの間にか私も同じ格好で、真冬に裸で走っていました。そしてこのころ連続して新しい本が出版されました。『盛大な人生』『心に成功の炎を』などと共に、さっそうとして登場した本が、『天風瞑想録』でした。いずれも1万円の本でしたが、ためらうことなく購入して、むさぼるように読んだのを思いだします。そのどれもが珠玉に輝いているのですが、1冊推薦するように依頼を受けたので、私としては『天風瞑想録』を選びたいと思います。後にこの本は『運命を拓く』と改題されて出版され、更に今は文庫本まで出ています。550円(当時)ほどの本になったのですが、その価値は全く変わる事がありません。この本の内容は、天風師の真理瞑想の音源を元にしたものです。先生の魂が伝わってくるように思います。

語られる内容は先生がまさに体験された、理屈を超えた世界での出来事を述べられているのです。そこから宇宙真理の原理を摑みだして私たちに説いてくださっています。
先生の稀有な体験を感じて、真理に近づくのもよし、また体験から絞り出された真理をありがたく受け取り、自己の人生に活かすもよしです。私も少しずつではありましたが、先生の気概に触れる中で、心を強くする階段を上りだしたのです。そうして今科学を否定するのではなく正しく評価しながら、その土台の上に更に心の力で人生のいろんな局面を乗り越えることが出来るという思いを信念化できるまでになってきました。

先生に対しては、ただ感謝です。 何も知らなかった理屈だけの頑固なわからずやの青二才が、何とか病を抑え込み今ありがたく活きているのですから。

皆さまには、私の原点ともいうべきこの1冊『運命を拓く』をお勧めいたします。

中村天風財団(公益財団法人天風会)認定講師 國分 博継
(2020.6.11掲載)