元プロ野球選手の広岡達朗を通して中村天風を知る。多忙な日々の中で仕事に思い悩んでいたところ、『運命を拓く』と出会い、その一言一句に心が吸い込まれ、人生の支柱を得る。現在は少年野球で子供たちに野球を通じて天風哲学を伝える。自らも日々実践し、自分自身を陶冶(とうや)していくことを誓う。
好きな事から自然に
振り返ると人生の流れを変える出会いが何処かにあるものです。出会いは人だけではありません。私の場合、「書」との出会いが人生の流れを大きく変えてくれました。
まず初めに、ご存じの方も多いと思いますが学生時代に『意識改革のすすめ』と『積極思想のすすめ』(いずれも講談社)の2冊です。
我が天風先生を師事した野球評論家の広岡達朗氏が執筆したこの2冊は、氏の人生体験の書で、読売巨人軍の現役選手時代、引退後の苦悩、そしてヤクルトスワローズ、西武ライオンズの監督時代の選手育成の実話・実体験を通して天風哲学を優しく紹介されています。私はその時は単なる「野球好き」が高じて購入しただけでした。しかしそれは、その後、私の生き方を大きく指し示してくれる天風哲学との出会いでもありました。
私が高校まで部活動が野球だったこと、そして私の父が、早稲田大学時代の広岡達朗選手の熱烈なファンで、そのまま息子の私に「達朗」と命名したこともあり、この2冊との出会いは必然であったのかなとも思います。 著書の中で中村天風先生の教えを知るわけですが、読後にともかく心に刻まれたのは著書内で紹介のある「力の誦句」と「朝旦偈辞(ちょうたんげじ)」でした。なぜかそれが心にハッキリと残り、日々事あるごとに、ひとり言のように唱える習慣になっていました。「私は力だ、力の結晶だ・・・」「我は今、力と勇気と信念とをもって甦り・・・」と。なぜか・・・。
説明しにくいのですが、誰に言われるわけでもなく誦句を唱えた時の「心地良さ」や「安堵」そして自分への「激励歌」みたいな感じで自然と覚えたのだと思います。そしてそのうち「甦りの誦句」の~正しい人間としての本領の発揮~の「本領」ってなんだと事あるごとに考え、~吾が日々の仕事に溢るる熱誠を持って赴く~の、「日々の仕事」ってなんだとなんとなく考えるようになりました。しかし、その時点ではまだ、天風哲学を深く学ぼうとか、会に入ろうという気持ちは全くありませんでした。
『運命を拓く』との出会い
そのおよそ3年後、親友の父の葬儀が護国寺であり、地下鉄護国寺駅の階段を登り、薄暮の護国寺のご門横にある「天風会館」を目にしました。「わぁ、ここだ!」と、吸い込まれるように会館に立ち寄り一冊の本を購入しました。入会のきっかけとなる『運命を拓く』との出会いです。その時もテレパシーで吸い寄せられるかのように自然と会館に足が進み、書に手が伸びたのを記憶しています。
広告会社に勤務して当時約10年余りで多忙の毎日で、不規則な生活を送っていました。体力に自信はあるものの、裏腹に心は混沌として散らかった状態で、失敗、挫折も多く、自ら勝手に壁を作って思い悩んでいた時期でもありました。そんな私にとって『運命を拓く』の一言一句はコンパクトで無駄が無く、スーッと心に吸い込まれて行きました。天風先生の教えのすごいところは「日々の生活の中で自己を陶冶しながら心地よい人生を生きるための日常生活道」である点です。私の人生の支柱は「これだ!」と確信させる強烈な力が、会館のたたずまいと1冊の本にはありました。これまでの書の感動とは異なり、言葉が心に沁み込んでくる不思議な感覚でした。そこから、日曜行修会、入会、東京夏期修練会と、トントンと入道して20年が早くも経ちました
さあ、日々是実践
さて、長けりゃいいってもんじゃ無い事は百も承知!むしろマンネリ化して誦句も空言化しないように注意、注意の毎日です。小生の昨今の日々の天風道の実践について少しだけ触れさせていただきます。現在、地元品川の少年野球(未就学児~6年生)チームで育成の機会をいただき12年が立ちました。その活動の中で、子どもたちに「積極心」と「潜在能力(を信じる)」の大切さを折に触れ伝え続けています。相手が子どもの場合、如何にすれば解りやすく、体験から実感してもらって、記憶に残って継続してもらえるかを工夫しないといけません。自分のことも振り返りながら「積極心」や「潜在能力」を信じるベースは、やはり普段から心を統御した生活態度であり、練習の積み重ねであることも改めて実感しています。人にお伝えする中で私自らが修練する、いい機会を頂いたと思い日々感謝しながら野球指導に当たっています。
天風哲学は子どもたちには少し難しいかなと思っていましたが、逆に子どもの方がとても素直でむしろ大人より心が「空のコップ」状態にあり顕著に成果が表れます。素直が一番!そして教える側の責任重大!
自分の力を信じてプレーした場合と、そうでない場合、たとえ結果は同じでもその先の継続する力に少しずつ差が出て、ある期間たつと大きな差が実感されてきます。スポーツは勝負ですから結果が出たり出なかったリですが・・そんな心の対話の中で、子どもたちと日々楽しませてもらっています。
一生の『教え』との出会いに感謝
天風先生の教えの通り「潜在勢力」を信じて「積極精神」を貫くことが幸せへのマスターキーであることは間違いありません。日々是実践。これからも天風哲学一筋で、正しい人間の「本領」とはなにか、自分の人生の「本分」は何かを問いかけ、自己陶冶を怠らず一歩一歩進んで行くことを毎日1人朝礼で誓っています。それもこれも私の場合は前出の3冊との出会いが大きかった訳で、それには今も感謝、感謝です。
元プロ野球選手の広岡達朗を通して中村天風を知る。