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大学時代に合気道を通じて知った中村天風。三十手前で大きな壁にぶち当たったときに、解決策を求めて自己啓発本から、著名な経営者やスポーツ選手の自伝、心理学、哲学、古典まで数百冊の書籍を読み漁る中で中村天風述の『運命を拓く』を通じて中村天風と再会。運命の再会を機にそれまで悶々として抱いてきた悩みが氷解。

運命の再会

私は三十手前に公私で大きな問題に直面しました。心の中でうごめく衝動を抑えられなかったのです。そんな自分を何とかしようと様々なジャンルの膨大な書籍を読み、さらにランニングを通じて精神力を鍛えようとしました。

読み漁った書籍には心を震わせ涙するフレーズが幾つもありました。しかし、いくら感動に酔いしれても肝心の自分は変わりません。ランニング中は一時的に悩みを忘れられましたが、大雨が降っても、足に痛みがあっても走るというランニング依存症のような状態になりました。

そんな中で出会った、否、再会したのが、中村天風述の『運命を拓く』です。偶然、会社近くの書店で『運命を拓く』を目にしたとき、大学時代に学んでいた合気道の流派の創設者が中村天風に師事したことを思い出しました。

今思うと、実は私が合気道を始めたのも、中村天風の創設した心身統一法の『折れない手』という思考によって身体の働きが変わることを示す一種のデモンストレーションがきっかけです。『折れない手』を大学の合気道部が新入生勧誘に用いており、心の持ち方で身体にこんな大きな変化があるんだと感動して、そのまま入部したのを今でも鮮烈に覚えています。

自らを客観的に省みる

心身統一法には、心を積極化するために『内省検討』という自らの思考を客観視する方法と、『暗示の分析』という普段何気なく接する情報を分析する方法等があります。

私はマーケティング・リサーチャーの仕事をしており、仕事柄からプライベートで飲食店や商業施設を訪れても、どういうお客さんが来ていて、どんな行動をしているのかをついつい観察してしまいます。また前職で性格検査の開発に携わったので、人と接しているとその人の性格特性を見るクセもあります。そんな私に心身統一法が教えるこれらのアプローチはもってこいのものでした。

学生時代、合気道を通じてプラス思考の大切さを学んでいたのですが、その本当の意味を理解していませんでした。今振り返ると内省検討や暗示の分析等をしていなかったので、単に自分にとって都合の良いことを考える自己中心的思考に陥っていました。

運命の再会に大きな感動を覚えた私は、他に心身統一法のクンバハカというヨガ由来の体勢や呼吸法、安定打坐という瞑想法等の実践を日々始め、それにより暴れ馬のように心の中で駆けずり回る情動を少しずつ制御できるようになりました。

一人のリアリストとして

私が好きな中村天風の言葉の一つに「百万人の付和雷同者より一人のリアリストを望む」というものがあります。「百万人の付和雷同者より一人の」というフレーズは、空気に飲まれやすい日本人が苦手とするところであり、数多くの修羅場を乗り切った中村天風らしい言葉です。中村天風の言う『リアリスト』は突き詰めると非常に深遠なものですが、私の解釈をなるべく簡潔に説明すると、リアリストとは心身統一法で自らの根っことなる部分を確保して平常心を保ち、例え目を背けたくなるような厳しいものであれ、目の前に生じる様々な事象を判断し、理想に向けて必要とされる行動を断行していく人のことです。

中村天風が凄いのは単なる名言、美辞麗句にとどまらず、日常で実践できるHow to doを教えてくれるところです。逆の言い方をすれば、単なるハウツーにとどまらない深遠な思想を持つ実践哲学であるところも魅力です。

心身統一法の『絶対積極』は、単にポジティブに考える、まして自分にとって都合の良いことだけを考えるものではありません。どんな事態にあっても、悲しみや怒り、恐れに心を囚われず、平常心で物事に臨もうとすることです。

私はかつて滑舌の悪さのため、人間関係に悩み、周囲の反応にびくびくして引きずられることが多々ありました。運命の再会を機に心を統御する具体的な術を学んでからはそういう悩みは少なくなりました。もちろん問題が無くなったわけではなく、何かあっても事態を冷静に捉えて対処することを心掛けるようになったということです。

いつも明るく朗らかにいると、自然と周囲に明るく朗らかな人達が集まって来ます。実はこれも心身統一法で教える心を積極化するための『交人態度』の実践です。かつては考えられなかったことですが、悩みを抱える友人知人にアドバイスをして喜ばれるようになりました。

中村天風は「何かあるのが人生」と言っています。これからの人生にはより大きな荒波が打ち寄せることがあり、さらにまだまだ未熟者なので色々と失敗を繰り返すでしょう。でも、そんな時こそ一人のリアリストとして、今まで学んだことを実践して成長していきたいと思っています。

高松 真路 | マーケティング・リサーチャー