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~はじめに~
天風会には様々な職種の会員がおり、「教師」も多く参加しています。
天風会員の教育関係者が集まり、教育現場で天風哲学の理念と心身統一法を活かすため、教育現場での実践例や課題を出し合い、互いに学びあう場(教育プラクト)を設けています。その中では、新学習指導要領の中で謳われている「人間力」を高める教育についても議論されています。議論したことをそれぞれか教育現場に持ち帰り、日々実践をしています。
今回、「人間力」いわゆる人間の持つ「潜勢力」を高める教育を実践されている、高校教諭の荒谷弘先生からの寄稿文です。

教育プラクト実践記

天風哲学に出会い,約25年の月日が経ちました。年齢を重ねるごとに,また様々な教育現場で様々な生徒に接するごとに,その哲学の深さに気付かされています。教育者として,生命力溢れる若者と毎日接することで,私の心は毎日ときめきを感じています。教師であることは何ものにも換え難い幸せであると感謝しています。

先日,天風会員の方とともに,我が高校(呉港高校)で,天風哲学を織り込んだ公開授業を行いました。また,この授業を通して天風哲学の大切さを再認識できたことに教育者としての幸せを感じています。
公開授業では「集中と転換」の育成を基本として,天風会員の三登先生が専門とされる「災害」をテーマに取り上げ,様々な場面でどのように対処していくかを考えていく授業を2人で行いました。

この授業は,呉港高校で実施している「グローバル・スタディ」という学校設定科目の一環として実施しました。2年次までの2年間,週1時間を確保し,講義形式ではなく,様々なアクティビティを通して,「人間力」いわゆる人間の持つ「潜在力」に気付かせ,その能力を開発していくことを目的にしています。そのため私の授業では天風哲学が欠かせないものになっており,年間指導案作成の根幹になっています。

この「人間力」は,正しい知識や確かな技術はもちろん,冷静な判断力や忍耐力,協調性などの態度の育成のみならず,人生を真に意義のあるものにするなら,万人に対しての優しさと感謝の心,些細なことから学べるしなやかな探究心,そして何よりも,わが身を省み,他人を許すことができる謙虚さと,他人のためになろうとする献身的な姿勢がなければならないと思います。教育の主役は生徒です。教師は生徒の潜在力を「伸ばす」のではなく,生徒自身が自身の存在力に気づき「自身の力で伸びていく」ことが重要だと思います。教師がどんなに大切と思って与えようとしても,それを与えることができるとは限りません。生徒に自己の「潜在力」に気付かせ,自らの力でその力を伸ばしたいと思わせることが教師の役割であると思います。生徒とともに教師も進化・向上しなければならないと思います。私は機会あるごとに天風会関係者の講演会や講義を生徒にしていただいて来ました。その度に,生徒は心を揺さぶられ,強い心(積極精神)を持つ大切さに気付かされてきました。生徒にとって素晴らしい体験になったと思います。

しかし,いつも課題になることがありました。それは,その時受けた気づきや意欲が持続しないことでした。今回の公開授業のテーマは「この気づきを継続させるための工夫」でした。「駅伝」に例えると,公開授業を折り返し地点とし,それまでの往路とそれからの復路をどのように繋いでいけばゴールを目指せるかといことでした。折り返し地点までの約10時間は,天風哲学を根幹にし,アンガ―マネージメントや自己分析の仕方,積極心の作り方について取り組ませました。公開授業(折り返し地点)ではそれまでの振り返りの時間を取り入れ,その後アクティビティに入り班別活動でその態度が発揮されるかを観察しました。公開授業終了時にはアンケートを実施し,その態度が発揮されたかを見ました。また,公開授業の一週間後にもアンケートを実施し,生徒の心に積極心の必要性の意識が継続されているかを見ました。そのアンケートを集約すると,公開授業直前のレクチャーで,折り返し地点まで実施した積極心養成法を忘れていたが思い出した者が多く,しっかりと覚えていた生徒は数名でした。しかし公開授業以降積極心養成法を心がけている者は10名おり,その内容は内省検討,呼吸法,一点集中法,感謝の気持ちを常に持つなど,これまでの授業で行った方法を実践していました。いかに良い講演会や講義を行っても,その往路と復路を教師がうまく組み入れないと効果がないことを改めて確認しました。いかなる「潜在力」も,負荷なしに強まることはありません。それは精神力,知力,体力,いずれも同様です。まず初めに,何らかの力が加わって「潜在力」が触発され,その「芽」が出てきます。さらに外力が繰り返し掛かれば,それに反発して「芽」は伸び,同時に,内に力を溜めていきます。外からの力が少しでも加えられなければ,「潜在力」はいつまでも眠ったままで,それが発揮されることも,強まることなどあり得ません。そして,その外力による負荷は適度なものでなければその効果はありません。このことを教師がしっかりと認識し,生徒の現状を冷静に把握し,分析し,そして焦らず時間をかけて生徒を導いていかねばならないと思いました。生徒たちは見えない成果にもがきながら勉強を続け,挫折と落胆にストレスを大いに感じながら学校生活を送っています。ひとりでも多くの生徒をこの状況から解放していくことが教師に求められていると思います。

「真の幸福」とは物を超えて,人を通してこそ得られるものだと思います。教師がそれに浸って満足するだけでは本業を疎かにすることにもなりますが,伸び盛りの若い生命との触れ合いは何よりの喜びであり,教師に幸福感をもたらしてくれるものです。それは生徒たちに人として接することから得られるものであると実感しています。

最後に,私が授業(ホームルームも含めて)を計画する際や生徒に接する際に,ベースとなっている
誦句をご紹介し,メッセージを終えたいと思います。

「今日一日 怒らず 恐れず 悲しまず, 正直 深切 愉快に, 力と 勇気と 信念とをもって 自己の人生に対する責務を果たし, 恒に平和と愛とを失わざる 立派な人間として活きることを,厳かに誓います。」(天風誦句集(一) 「誓詞」より)

教育プラクトとは?

学校教育現場に天風哲学の理念と心身統一法を活かすために,自らの天風哲学の理解と課題の解決を学びあう集まりが,4年前より定期的に開催されています。天風会員の教育関係者が教育現場での実践例や課題を出し合い,明日に繋がる教育実践のヒントを模索し教育現場に活かそうとしています。新学習指導要領にも「人間力」が謳われており,新しい形の学びが必要とされています。この「人間力」を高めるための教育を推進するためにも,天風哲学の大切さを認識している我々天風会員教育関係者が,先駆者となって日々の教育活動を実践していこうではありませんか。すでに天風哲学を取り入れ実践されている方,また,どのように取り入れればよいか考えている方,共に集い自己を進化向上させていけば,将来の日本を支える若者の心を変えていけるのではないかと考えます。みなさんのご参加をお待ちしております。志のある方は次の事務局までご連絡ください。

教育プラクトの会 事務局:京都の会 元、奈良県公立小学校々長
川田 真由美 090-4031-7322
代 表:天風会講師・宝塚医療大学客員教授・大阪府S.C.
都甲 泰弘 090-9048-1672

呉武田学園呉港高等学校教諭 荒谷 弘