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心を積極化することで、人間の潜勢力が発揮されると中村天風は説いています。
その心の力で病気を起こさないようにすることを、米国ハーバード大学と共同研究をされてこられたのが、漢方医で〝未病医学〟の第一人者、天野暁氏です。
天風会理事で同じ漢方医の岸本京子氏が、天風哲学と共通する心の在り方についてお話を伺いました。

 

◆ゲスト 天野暁(劉影)氏
日本未病医学研究センター所長・医学博士

◆インタビュアー 岸本京子氏
中村天風財団理事、漢方専門医

 

【未病とは、健康と病気の間】

 

岸本 今日はご多用のところをありがとうございます。
まず私、一番興味がありますのがこの未病ということで、先生が提唱されているところをいろいろとお聞きしたいと思います。よろしくお願いいたします。

天野 未病の話は私の専門の中の専門です。35年前に東京新聞で未病について連載を始めたのがきっかけになって、日本国内で未病ということがマスコミで言われるようになりました。そのときは未病というのが末病(まつびょう)と勘違いされたりして、「末病の天野先生」などと言われました。つまり、未病という概念がなかったのです。その後は、日本未病医学システム学会ができて、私は評議員をしておりますが、未病という言葉も世間に認知されてきました。
未病とは健康と病気の間で、発病する一歩手前の状態を言います。未病というのは東洋医学の中でもともと一番重要視しているものです。病気にたいして西洋医学とちょっと違うところがあって、その病気にアプローチするだけじゃなくて、その人間の持っているエネルギー、最大の自然治癒力とか、生活の知恵とかを高めてあげるということが、未病を治す考え方です。未病を治して健康な体にするにはどうしたらよいかということですが、未病の基本はむしろ病気の問題ととらえるよりは、健康と幸せということにとらえたほうがわかりやすいような気がします。

岸本 それはどういう発想なんでしょうか。

天野 未病医学システム学会の定義では未病は二タイプありまして、一つは自覚症状あるけど、検査に異常がない。例えばめまいとか、肩こりとか、腰痛とか、更年期とか、自律神経失調症とか、全部自覚症状があるけれど、検査異常がない。もう歳のせいか、肥満のせいかくらいで。それが一つ、未病のタイプです。
もう一つのタイプは、自覚症状はないけれど、検査結果に異常がある。例えば中性脂肪、コレステロール値が高いとか、軽い痛風と異常が出ているけれど、本人は自覚症状がない。
そこでなぜそういう発想かと言うと、基本の考え方は人間が持っている自然治癒力をいかに高めるか。いかに食べて、いかに楽しんで、幸せでいることで、生きようという力が強くなる、ということが私の未病を治す根本案ですね。

岸本 たぶんそれは漢方の哲学というのがベースにあるわけですね。


天野
 健康とは、単に病気がないということではなく、身体的、精神的、社会的にWell Beingの状態、日本語で言うと「機嫌よくいられる」ということでしょうか、それがWHO(世界保健機関)の定義です。それには適度な運動、腹八分目、質のいい睡眠、ポジティブシンキング、笑う、今この瞬間を生きる、良い習慣、感謝、生き甲斐、楽観的などがキーワードになります。


(天野氏)

岸本 なるほど。普通の人は病気になるまで気が付かず、自覚症状がでるとまず病院に行きます。本当はその前にやるべきことがあるわけですね。

天野 私も西洋医学の教育を受け医学博士になったわけですから、西洋医学の治療は必要、検査は必要と考えています。ただ、西洋医学の特徴は検査が上手くできる、手術できるものは上手くできる。でも、その人の回復力をつけて再発を防ぐ力はないんです。再発してから来てくださいと。ですからそこから未病を治すという漢方の私の仕事になるわけです。
例えば末期ガンの女性がいらっしゃって。手術を救急で受けた後に、余命3ヶ月と言われました。6年前たまたま出会って、私は特にガンの専門ではないですが、彼女に必要なのはまず食生活の指導、いかに栄養のあるものを食べるか。それと、もう一つはまったく運動をしていないので、何十年も充分汗をかいたことがなかった。そこで彼女にトレーナーを紹介してあげました。人間は運動することによっていかに免疫力が上がるか、自律神経を整えることができるか、重要なことなんです。
それ以外に、体温を1℃上げると免疫機能が34%上がるという研究成果があるので、私どもが開発した漢方生薬をお風呂に入れて体を温め免疫力を上げる。まず生活のペースを指導して作っておいて、その中で即効性のある漢方の冬虫夏草とか、そのようなものを使って、今はもうどこも異常がなくなりました。仕事もそのまま続けて、定期的に検査はもちろん受けて、腫瘍マーカーが下がって、2年くらい前から、もう完ぺきな身体になっています。だからそのような生活指導とサポートをするのが、未病を治すことなんです。

 

【幸せになることで、免疫力が高められる】

 

岸本 先ほどのキーワードのような、気持ちの部分と言いますか、そういう点についてはどうなのでしょうか。

天野 私は五年前から米国ハーバード大学で共同研究を行っていますが、ハーバード大学は私の持っている未病医学とか、陰陽論とか、五行とか、東洋医学のことを知りたいと同時に、彼たちが私に与えてくれたのは、実は今、医療の主流になっているハピネス、幸せにいかになるか、人間は幸せになることによって、免疫力が高められる、というデータです。
例えば数値からみたハピネスの効果。幸せになると幸せホルモンと言われるエンドルフィンが分泌され、気持ちが落ち着き、脈拍や呼吸を安定させます。血糖値も安定する。高血圧になりにくい。自殺率が低くなる。自分をコントロールできるようになるからで、肥満にもなりにくい。ガンの発病が非常にしにくくなる。うつとか不安ももちろん少ない。ですから、ハピネスということは、私は最高なお薬と思っているわけです。

岸本 なるほど、そういうことなのですね。

天野 でも、「ハピネスってなんだろう?」ということも実はハーバードの調査で全部分かっています。ただコーヒー飲んで幸せ、お金あって幸せ、じゃなくて、自分の人生にいかに向き合って、自分がやりたいことをいかにできるかということ。たくさん基準があります。でも統計医学のデータより簡単にできるのは、好きなことに夢中になる。それが一つ。二つ目は笑顔。実は作った笑顔でも免疫力を上げる。三つ目は怒らない、責めない。それをすることによって、活性酸素の発生量がだいぶ減るんです。がんがん怒って、毎日不安だらけで、文句だらけという人は、大体ガンになる。
簡単に言うといわゆるストレス。実は細胞を傷つけて、修復力を落とす。老化と病気の原因になるんです。そこで人間はまずポジティブな自分に脳内革命させないと。世の中に特別なお薬はありません。やっぱり基本は生き方、希望とか、楽しいことをつくることが必要。これはハーバードの教えです。

岸本 東洋医学は基本が哲学的で難しいですね。


(岸本氏)

天野 哲学ももちろん大事ですけれど、もっと具体的なのは、私はハーバードの教えだと思うんですね。例えば、幸せになってガンにならないためには、まず感謝という言葉を使ってくださいと。ハーバードの患者さんに対しての治療は1日15回、ありがとうと言おうと指導します。
でも、ちょっと待ってください。15回なんかあるわけない! でも、目が覚めたら「今日は無事に目が覚めてありがとう」。そうでしょう? そのまま死んでいく可能性もある。「今日は良い天気でありがとう」「今日は皆さんに会えることありがとう」「雨だけど主人が車で送ってくれてありがとう」、それ数えたら簡単に行くんです。それを習慣にする。

岸本 習慣ですね。日常の中に取り込んでいくということですね。

天野 そう。15回くらいは、調べたらいくらでもある。ただ、気がつかないんですね。
それから私は患者さんに良いことを探す習慣をつけるようにと言います。西洋医学では悪いところを探すでしょ。「腫瘍マーカーが高い。あなたは余命3ヶ月」と言われたら、……私が言われたら2ヶ月で死んじゃう、ショックで。ガンが治っても再発率が高い。五年後をクリアできるか、十年後はどうか、いくらでもあるんです。だから、皆「ああ、五年後、私どうなる? 十年後どうなる?」と心配になる。
私は五年後、十年後のガンの心配はないかもしれないけれど、でも私の一年後は何があるかわからないじゃない? 明日だってわからないし。ですから、一つ考え方を変えてポジティブシンク、ガンになったことで確かに五年後、十年後は普通の人より発病率は高いけれど、逆にガンになってからあなたは普通の人より以上、予防に力を入れるでしょうって。ガンがなくても五年後、十年後わからないもの、何があるか。

岸本 ポジティブシンキングは、今盛んに言われるようになりましたね。

天野 実際にハーバード大学でポジティブシンクによる様々な医学的な効果が認められています。はっきり出たのは免疫力が上がる。集中力を高める。モチベーションも上がる。だから仕事をよくする、生産力も高くなる。あと、人間関係が円満になるんです。
実は患者さんの立場を考えると、病気になると、「なぜ私がガンになるの?」「今まで一生懸命働いてきて、なぜ?」と世の中を責めることが多いですね。なかなか受け入れられない。そうなると身内とか友達とか、周りとの人間関係が悪くなりがちなんです。
女性の患者さんで六十代で乳ガンになった方が、自分は今まで元気で血圧も何も問題なかった。自分の病気は主人のせいと言うんです。聞いたら、ご主人は脳梗塞を起こして十年前から寝たきりで、その介護でストレスがある。乳ガンになるのはよく言われる女性ホルモンとか、肥満とか、あと様々な加齢因子もあるけれど、実は人間の身体は教科書通りには行かない。ストレスという言葉を簡単に片付けるけど、私はその中で人間関係が円満でうまく行くことは、西洋医学の言葉でいう環境因子の一つだと思います。東洋医学の考え方では人間の体は小宇宙、地球上で社会や自然と一緒に調和して生きているので、人間関係が悪くなると、免疫力が上がるわけがない。「主人の顔、見たくない」。そんな感じになると、やっぱり病気は治らないです。

 

【 日本人が長生きな理由】

 

岸本 先生のご著書の中にも、日本人がどうして長生きかというお話の中で、単に医療的なものではなくて、社会、人間とのつながりを指摘されていますね。

天野 そうそう。それ、ハーバードの研究の成果です。よく日本人は長生きなので、日本料理がいいと言われてますが、実はハワイに住んでいる日本人が同じ日本料理食べていても、全然短命なんです。
特に長野は去年WHOの調査によると世界で一番長生きです。私たちハーバードのチームで長野に何回も入って、なぜ長生きなのか調べたら、まず野菜をたくさん作ってる。じいちゃん、ばあちゃんが労働して、大豆とかブドウとかトマトとかのいいものを作っている。それは見えるものです。でもそういうところは、ヨーロッパの村や地中海のどこかとか、中国の村とか、いくらでもあるんですよね。
じゃあ、何が違うか、調べた結果、実はわかったのです。公民館。それはアメリカにはないの。中国にもない。どこもない。この公民館がなぜ健康につながるかというと、あなたの家と私の家の間に公民館がある。そこでもののシェア、うちはトマト、あなたはナスをどうぞとお互いに分けあう。そこで一時間、おしゃべりをする。公民館に行くのは歩いていくから運動になる。人に会うからちょっとお洒落もする。社交場になっている。つまり人とつながっている。そしてお互い様と助け合う気持ち。お互い様ということは非常に人間関係をよくしますから、免疫力とかに最後はつながる。専門用語を使うとソーシャル・キャピタルが豊かになる。これは社会への信頼や、つきあいや交流、社会参加などをソーシャル・キャピトル、社会資本と考え、その要素が豊かなほど、人々の協力や交流が活発になって、治安、経済、健康、幸福感などへ良い影響が出てくるのです。

 

【 頑張るだけでなく、休む】

 

天野 今私が取り組んでいる未病を治す方法は、漢方を使った生活改善だけじゃないんですね。やっぱり人間の、自分自身もそうだし、幸せつくることね。自分に快感をつくる、幸せ、楽しいことをつくる。

岸本 自分の中に、ですね。

天野 そう。例えば買い物したら楽しくなればいい。飲むことが楽しいならそれもいいじゃない。ただ、限度があります。その限度を超えすぎて病気になるんです。
今ハーバードの中で予防医学、つまり病気にならないために一番重要視しているのは習慣。日常生活で習慣になるようなことを医学上のデータとして32種類全部調査して、この習慣があることによって病気しにくい、病気が治りやすい、長生きしやすい、幸せになりやすい、成功しやすいというものを提案する。私が講演でよく言うのは、人生を豊かにする究極の習慣の提案です。ハーバードの研究により、習慣こそ人生を豊かにする鍵が隠されていることがわかってきました。人生が楽しくなる習慣プランです。
それにはまず、するべきことを減らして、生活をシンプルにします。それには自分が気持ちよいことを選ぶ。どちらかと言うと日本人は細かいことをしすぎです。あなたに一番必要なのは何ですか? シンプルにすると脳の整理もできるし、脳を整理すると免疫力が上がる。やっぱり「病は気から」ですからね。
それから運動をすること。運動は、自己評価や思考力など、精神力を高め、健康寿命を伸ばします。人間が歩くこと、走ること、立つことは基本、人間の本能です。病気になったら横になる。死んだら永遠に横になる。ですから、運動ということがいかに重要か。今の患者さん、自分の足が上がらない人がたくさんいます。重力に負ける。ですから、九十歳まで歩きたいのであれば、貯金より筋力貯金。

岸本 なるほど、貯金より筋力貯金。

天野 そう。運動で筋力貯金。だって、お金は寝たきりになったら何の意味もない。やっぱり多くの高齢者にとって歩けないことは未病だと私は思う。

岸本 足ですね。

天野 そう。病気はないけれど、お尻と太ももとか腹筋とか背筋が落ちて、満足できる生活ができないから、結局、大きな未病ね。中高年になると、大体それじゃないですか。歩けないし、太るし、あちこちケガするし。それ、漢方の世界のアプローチじゃないかと、私は思います。
あともう一つすごく大事にしているのは、回復力アップ。私たちの多くが、自然の要求を無視して心と体を酷使し続けていますよ。個人としても家族としても、社会としてもよくありません。どんなに忙しくても一日一度休むとか、あるいはどんなに忙しくても八時間寝るとか、仕事を前向きに頑張るだけじゃなくて、止まる、休む。これは西洋医学にはない発想なんですね。

岸本 ここですね。

天野 そう、ここが日本人は非常に弱いですね。ずっと頑張る。倒れるまで頑張る。だから、ガンの患者さんは体調悪くなって急に検査したらガンと言われた。体調悪いのを自分は気が付かない。ずっと悪いから。そこが不思議なところです。回復するには時間とお金が必要ですね。例えば回復したいならマッサージ行ったりとか、鍼に行ったりとか、それにはお金がかかります。その時間ももったいない、ではなくて、回復力をアップさせようという、その考え方ですね。それが皆ない。

岸本 たぶんこれはもともと考えていないので、そういう時間がスケジュールに入っていないんです。

天野 そう。生き方の中にない。この間も政治家の有名な方が来て、四十代なのに疲れた感じ。私、「あなたこの状態では票が集まりませんよ。疲れ、疲れで、オーラもないし、太っているし、むくんでいる。だからこうしたらどうでしょう。人と打ち合わせするとき、1時間でも2時間でもいいから、早くホテルについて、ソファで寝ればいい。わざわざ部屋とって寝なくても、ロビーとか、暗いところはいくらでもあるでしょう。あなたの健康状態では票はもらえない、落ちますよ」と、アドバイスしました。回復するということは、イコール、成功の近道と私は思います。

岸本 ほんとにそうですね。

天野 一つは体力の回復と免疫力の回復と、あと圧倒的なのは自律神経の回復です。ずっと緊張する交感神経が働いているので、副交感神経でリラックスさせる。少しよくなると人間はだいぶ違うんですね。

 

【 人の一生は直線ではなく、まあるい円】

 

岸本 先ほどからお話を伺っていて、私たち天風会員は皆「ウン、ウン」と心の中で非常に頷いていると思います。中村天風が提唱している心身統一法は、もともと私たちがもっているいのちの本当の力を発揮するための方法なんですけど、その中で説いていることと、先生のお話とが重なっていて感激しました。

天野 そうでしたか。

岸本 私はもともと西洋医ですから、西洋的な考えが当然あるわけで、データに振り回されたり、目に見える症状に振り回されてしまう傾向があるわけです。ただ、確かに免疫力を上げるためには、心を天野先生がおっしゃる「淡々如水」でしょうか、中村天風は「虚心平気」と言いますが、どんなことがあってもこだわらない、とらわれないという無心の境地になることが大切だと言われます。
ただ、そういう境地にはなかなかすぐにはなれないので、中村天風は「明るく、朗らかに、活き活きと、勇ましく生きろよ」というふうにおっしゃっているわけです。やはり「ポジティブシンキングというのを基本に持つといいよ」ということなのですけども、今お話を伺っていて、自分の免疫力を高める方法というのは、人間の本来の生き方なのだなと思いました。

天野 そう、本来持っている楽な生き方です。

岸本 それを引き出せさえすれば、腫瘍があっても小さくなったり、自分の免疫力でそれを抑えて、ずっと付き合っていきながら、自分の寿命というところまでは行けるのかなと。

天野 実はこの考え方、自分の人生の中で考える時期があったんですね。最愛の父が心筋梗塞で亡くなって、自分の人生の中で初めて死というものに向き合った時なんです。なぜ人間は死ぬのか。そこでたまたまインドのガンジス川へ行ったんです。ガンジス川のほとりのホテルのロビーに座ったら、世界中の一流スター、スポーツマン、超お金持ちの方がたくさんいる。どうしてこんな汚いところに来るの? と思いました。なぜ汚い川にみんな入るの? 母なる川という。なぜかわからない。
この隣には火葬の場があります。そこから長いロビーのようなものがあって、いわゆる末期の病の人がここに座って死を待っているんです。火葬の場で亡くなった人は焼かれて花といっしょに、川に流される。一瞬でわかりました。生まれ変わるわけです。私たちが受けた教育では、生まれてから死ぬまで一直線ですね。ガンジス川が教えたのは、人間の一生は円ということなんです。火葬されて体が無くなっていくのと生まれてくるのは同じだとわかった瞬間、自分の心の中がだいぶ楽になりました。大きな百年の円もあるけれど、三十年の円もある。自分の運命、自分の寿命しかないですね。けれども、人間の一生は円ですね。丸ですね。
一生を線で考えると、生まれて、中年期、初老期、高齢者、もうお終いとなり、あと何年生きられるかと、
すごく不安に思うじゃないですか。これは、アンチエイジングの一番悪いところです。六十超えると、健康寿命あと十年? あと十五年? と、これしか見えない。
円と考えると、大きい円か、小さい円は関係なく、ゆがんだりバランス崩れたりしないように、少しでもきれいな丸い円にしようと、どんな時期も努力します。自分が望んだ通りにやらないといけないと思えます。そこで、ハピネス=幸せ、ということを私はすごく思うようになったのです。
では何がハピネスと言うと、日本語の中で一番似ている言葉は「ご機嫌よう」。

岸本 「ご機嫌よう」?

天野 そう。幸せという言葉は、何が幸せなの? 結婚したら幸せ? 妊娠・出産したら幸せ? 条件をさがしてしまいます。そうじゃなくて、ご機嫌というと、私はワンちゃん飼っていますが、ワンちゃんを見ると、「ああ、今日はご機嫌ですね、尻尾振って」と。人間もそうじゃないですか? ご機嫌なら絶対免疫が上がる。老化もしにくい。ご機嫌という言葉、日本語は非常によろしいんじゃないかと思います。幸せという言葉、英語になるとハッピー、ハピネスになる、ちょっと違いますね。ご機嫌というと、大体日本人はパッとわかりやすい。

岸本 なるほど、心の満足ですね。

天野 あと、最近ようやくわかったのは、人の幸せに貢献する。ギブ・アンド・ギブ。自分がよければいいと思う人はたくさんいます。でも実は人を幸せすると、自分は倍に幸せになれるというデータも出ているのです。これもハーバードの研究で、Give and Giveとはすべてを受け入れるということで、見返りを求めることなく最後まで与え続ける、という気構えが大切なのです。人の幸せに貢献することが、自分の人生を豊かにする可能性を高めることが明らかになっています。

岸本 ほんとですね。誰かの幸せで自分が幸せになれば、幸せがたくさんになるわけですよね。

天野 そうね。幸せは無限の資源ですね。大きな心を持つことは、年を取ると共に必要じゃないかと思います。若い頃はできなくても当たり前かもしれませんが、年をとったらね、そういう余裕がでてくるはずです。

岸本 私どもの財団の創立者である中村天風は、心と身体の両方を健全にするためには、まず心を積極化させることと説き、それに従って自然治癒力も増して身体も元気になるということで、その具体的な方法を心身統一法にまとめました。その教えが天野先生のご研究だったり、実際の臨床の場でのお話で、「ああ、なるほど、現実にそういうことなのだ」ということを実感させていただいたような思いです。

天野 そうですか。また何かお伝えできることがあれば、よろこんでお話いたします。

岸本 貴重なお話をありがとうございました。

 

 

● ● プロフィール ● ●
天野 暁(劉影)医学博士
・日本未病医学研究センター 所長
・ハーバード大学公衆衛生大学院、日米未病研究首席研究員(カワチイチロー教授 Lab)
・前東京大学・食の安全研究センター 特任教授
・日本抗加齢医学会・日本未病システム学会評議員など
・漢方医学・抗加齢医学を専門とする〝未病医学〟の第一人者。
二十年以上にわたり、漢方医学をベースにしたフーズサイエンス(特定保健用食品・漢方・サプリメント)の研究開発に従事し、高い評価を得ている。
著書『病気にならない15の食習慣』(日野原重明・天野暁)青春出版社
『Happyエイジングー今こそ、治・未病』万葉舎刊
『人生を好転させる発想と習慣32』(天野暁・荒井ヒロ子)
日の出出版刊、他多数

◇ ◇ ◇

日本未病医学研究センターについて
◇東洋医学の診断法と、豊かな経験を生かして、個人のライフスタイル・体質に合わせた、独自な未病改善を行う。
◇国内外のアンチエイジングの最新情報、食べ物や運動法、サプリメントなどの指導を行う。
http://www.mibyo-center.org/

(『志るべ』2018年6月号より)

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