裕福な家庭に生まれながらも、小学生のころから虚弱であり、中学二年のときに兄を結核で亡くしたショックと、その後自らも兄と同じ腎臓結核に侵されているさなか、溺愛されていた母にも亡くなられるという不運から、自暴自棄に陥った著者の、寂寥感、恐怖感、そして誰とも分かち合えない孤独感と絶望感は並大抵のものではなかった。人間とは一体何なのかと悩むしかなかった若き安武貞雄が中村天風の積極思想に触れていかに心も体も積極的になり健康に成りえたか、その過程を記したものである。
死という虚無の淵から這い上がることができたか実体験であるので、悩みが深く容易に積極的になれないというときに読むと、その気持ちを持っていく方向に明かりを灯してくれる書である。
(「志るべ」増刊号として発行)